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  氷雪まつり

   冬空に落葉松林の稍透し上る花火の彩のさびしさ

   雪原に上る花火のとどろけばつなぐ幼なの手はおののきぬ

   氷雪の森に上りし冬花火 はかなきもののたまゆらの艶

   氷雪まつりの仕掛花火をふり仰ぐ額に降りくる雪心地よし

   幽界とはかくもあらむか氷雪を染めしライトの消えゆくさまは

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  高山の町

   町並みにしずる音して側溝の流れ豊かな高山の春

   車曳きが文右ェ門坂を駈けてくる腹掛け姿に茶髪ゆらして

    絵ろうそくのひひなに眼許の似たる娘が古き町並み高山に商ふ

   生みの母育ての母の霊送る灯はよりそいて川面流るる

   越中おわら連旅のすさびか高山の人なき夜の町流しゆく

   ところてんのコーヒー味の清かにて訪ふふるさとの風新しき

   奥飛騨の水辺の店に風渡りコーヒー味の心太旨し

   ハトタクシーの看板かげに巣造りて二羽のつばめがしきりに出入りする

   飛騨の里に寒のもどりは厳しくて軒に太しき氷柱が光る

   解体の迫る市庁舎夕映えて庭の紅葉一際赤し

   日照雨する木造庁舎を取り壊す重機のかなたに虹淡く立つ

   流れ藻にからむもみぢ葉とりどりにせせらぎ冷ゆる夕べを帰る

   鍛冶工房の軒に炎の耀るみえて早も暮れ初む雪の降る町

   垂るる雲よ降りて真白き雪となれ暮れゆく歳の禊ぎともして

   雲切れて師走三十日の望の月清けく照らす新雪の庭

   一日降りて大気の塵を払いしか雪晴れの空水色に透く

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  厳しき冬も

   南天の朱は氷珠と輝きてダイヤモンドダスト蒼天を切る

   彼岸なお零下八度の朝焼けに細氷は降る金色の針散る

   標識は零下十二度示しおり表裏日本を分かつ峠に

   飛騨路来て山裾めぐる凍結にスキーワゴンの脱輪あわれ

   かまくらにともした灯りほの見えて秘むるが如き幼なの遊び

   しぶき氷る渓の流れをアップしてテレビは告げる釣り解禁を

   春待ちて母恋ひ秘めてわが作る初午だんご繭のかたちに

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  秋の日に

   かねてより欲りしヘンケル購いて赤きかぶらを弾みてきざむ

   明けぐれのとどろく雷に跳び起きぬわれ活断層の住人にして

   生物の眠りの軌道外れたるわれは深夜の迷ひ子となる

   頑なになりゆく吾と認むる夜戻らぬ言葉ひとりにれがむ

   クッキーの缶にて足るるこのわれにソーイングボックス籤にて当たる

   いつからか欲育ていし畑作り耐えるを教えて冷夏果てたり

   初秋の牧場にひねもす草を食む身ごもる牛の眼澄みたり

   盆経のさなかにちらと時計見しアルバイト僧せかせかと去る

   透る声に棚経上げたる学生僧麦茶の氷清かに噛む

   盆送りのくつろぎの座に僧が来て孫子うろたえ膝を並ぶる

    縄文の女男の姿も顕ちくるよ木の実積みたる水さらし場に

   縄文の味やも知れぬと水さらし場の筧の水を掌に受けて飲む

   登りゆく白山道は時雨して峽の紅葉に彩添ふ虹よ

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    明けやらぬ束の間の深き闇見つめ今し旅立つ不安を払う

    即眠りはっと眼覚むる旅の夜男の野生夫にも見たり

    末息子と桂林漓江に遊びたる笑顔これよと佛壇に残す

    帰る家ありてぞ旅は楽しけれ雨の越後路帰心そぞろに

     親不知いつか過ぎたり家族まつ家路へ急ぐ雨の夕ぐれ

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  西国三十三ヶ寺(巡拝四たび)

   捕鯨船の船出のさまも今は昔大地に偲ぶ男のロマン

   白浜の岩に刻めるカップルの名前くっきり朝の陽を浴ぶ

   春蒼む空を写して紀の川は流れ豊かに大和路下る

    和歌の浦由良の港と万葉の古歌をし思ふ海の辺の道

   南北朝の哀史遙かに吉野山平成の春は幸ひ満つる

   中山寺の夕べの鐘が流れゆく雲海暗く播磨野は雨

   霧ふかき御山に称名の声満たむ高野の朝の勤行に和す

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  四国八十八ヶ寺(春秋二回に)

   スニーカーなる靴ペアで購ひぬ四国遍路に旅たたむ春

    うぐいすの声に眼ざめる安房の宿今日ぞ始まる発心の旅

    遍路道稚葉みどりの光束を受けて白衣の身はひきしまる

    人はみな生き死に一人と思ひしに同行二人の幸せを知る

   声かけて互みにゆづる参道に遍路姿の外人に遭ふ

   御詠歌は山内に満ち辿りつきし遍路われらを包み給えり

   灯台の灯り及べる宿に覚む風雨激しき足摺岬

   車打ちて風雨海より吹き上ぐる足摺ライン春の先ぶれ

   黒雲の覆ふと見るや足摺の椿を打ちくる大粒の雨

    甲幹の学舎の外は知らぬとて観音寺浜に夫は語らず

    高曇る室戸岬の辺に立ちて鯨の幻外洋に追う

   鳴戸橋の下よぎりゆく観潮船瞬間に巻く潮も見えたり

   瀬戸内の暗きうねりに出漁の鯛釣り船の青き灯ゆるる

   伊予なまり穏しき媼岩屋寺に栗の実せんぶり商ひてをり

    車はなるる旅もまた良し眼つむりてゆるる琴電のひびき聞きおり

    南無大師旅路安かれと合掌し若者道を教えくれたり

    結願のよろこび深し床の間に観音像は親しく笑ます

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 みちのく 茂吉 啄木 賢治 ふるさとを訪ねて

   夕映えの十和田奥入瀬秋闌けて夫と歩みしひと代を思ふ

   トンネルと橋を縫ひゆく東北道 時雨は谷より立ちのぼりくる

   車駆る東北道はあられ散り 峡の村落秋の陽淡し

   旅人のバスを連ねる小岩井農場 啄木賢治の明治遙けし

   助手席の掌にもてあそぶくるみ二つ はろばろと来ぬ啄木記念館

   宿の朝津軽弁に送られて今日開通の八甲田山越ゆ

    厳冬の気象顕はに縞なして雪壁高き八甲田の春

    朝霧の晴れゆく田の面黒々と湯気たちのぼる陸中広き

   みちのくの片陰りする山なみに虹鮮けらし時雨縫ひ行く

   春雪の荒るるみちのく横断す 古きトンネルの暗きを抜けて

  インター志波姫誰かと笑ふドライバー夫は頭光る君にあらずや

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  中国路を行く

    無機質な自動発券に耳刺され吉備路の旅は雨に始まる

    国分寺の塔けぶるまで菜の花の黄の色冴ゆる吉備路雨降る

   雪残る峰に裾野はさみどりに大山の春心ゆくまで

   葉桜の酔ひたる様に紅は濃き蒜前高原春を耀う

    山陰路激しく雨が過ぎゆきて海の水際がしばし明るむ

    春浅き秋吉台はセピア色原始の海を風渡りゆく

   若き二人夜更けのロビーに肩寄せて姫路の夜景黙し見てをり

   健やかに夫は眠りを独占す更くる夜われを置去りにして

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  北海道   三人の孫と夫と 二夏の旅

    夏草の覆ふ碑流刑者の魂鎮むる鎖塚とや

    おおかたは思想犯とふ流刑者の拓きし道をツアバス行く

    湿原に朽ちゆく樹骸白々とトドワラなおも人招くなり

    さし招く形の野付半島ゆ見えて遠しも国後の島

    丘陵の起伏に夕陽あまねくて牧草ロールの連なり光る

   サロベツの夕霧なだらに流れゆき影濃き牛の群れを包みぬ

   えぞの地に聞くも親しき飛騨屋久兵衛交易の跡今に残れる

    オホーツクの海は夕凪陽を受けてアオサギ白く杭に動かず

    原生花園の夏は真盛り陽炎いて走る釧綱線一輌きりなり

   知床の遊覧船に孫たちはエビセン掲げて鴎と戯る

   ピリカピリカとガイドに合せて歌ひゆく知床峠ガスたちこむる

   雲海に富士の頂上見つけしを手柄となして孫らよろこぶ

   ふるさとの湖を偲べと月光の射し入る窓辺にまりも写しぬ 

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  湾岸戦争と宇宙

   報道は洪水のごとし聞く程に湾岸の正邪計りがたしも

   声高き者正しとは限らざる我欲の果ての愚かなる戦さよ

   罪もなき民衆殺めて名誉ある撤退などとうそぶくかフセイン

   海賊放送平和の声のラスト曲 ウイシャルオーバーカム勝利の日まで

   BSに釘付けとなる炎暑の日ソ連邦クーデター世界駈抜く

   かぐや姫のファンタジーをも思はせて ソユーズミューズ宇宙をめぐる

   グラスノチ国も思想もうたかたの現に見入る宇宙のドラマ

   ピナツボの噴火の故とふ赤き月地球の影を写し欠けゆく

   彗星の近づく宇宙にパイオニア探査を終わりて交信の絶ゆ

   去るパイオニア近づくヘールポップ彗星四月一日生きて楽しも

                        1997年4月1日 AM4:40
                        木星探査機パイオニア宇宙の彼方に消える

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 老境に入る

   熟年と優雅に言えるものならずさけて通れぬ老に向へば

   長寿とは良きことばかりにあらざるを如実に語るテレビに学ぶ

   高齢化痴呆を探る番組は見たくはなきに見ずにはおれぬ

   確実に到る老いとは思ひつれ詮なきこととなべて慎まむ

   身に兆す老いは素直に受けとめて心の在処しなやかにせむ

   ためらいて染めたる髪の色なじみ心さらさら七十路に入る

   自らの枠を外すと気負えども空港までは夫の送迎

   質実な父租と豊けき孫子らの間に生きて先行き虞る

   喜寿祝ぐと老梅春をさきがけて装ひ集ふ料亭州さきに

   残照の岳にかかれる秋の月わが終の日の帷たれとも

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